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車の内装端材の培地で栽培したイチゴ(24年12月、愛知県豊橋市)

浜松市に製造拠点を持つ自動車内装品の宝和工業(名古屋市)とスタートアップのマラナタ(浜松市)が植物栽培向けの培地を共同開発した。内装品製造時に出た端材を再利用する点が特徴だ。1期目の検証では観葉植物やイチゴが順調に育ち、安全性にも問題はなかった。未活用素材に新たな価値を加える「アップサイクル」の裾野が広がってきた。

使うのはシート表皮材、フロアカーペット、タイヤとボディーの間に装着して騒音を減らすフェンダーライナーなどの端材。繊維と樹脂の複合材だ。これらを小石ほどの大きさに粉砕し、綿のような状態にしたものを培地にする。

宝和工業では毎月100トン前後の端材が発生する。従来は大半を外部企業のボイラー燃料として再利用してきた。新たな活用方法を探っていたところ、2024年4月に培地のアイデアが浮上した。

とはいえ、植物関連は未知の分野だ。ノウハウが豊富な連携相手を探し、タッグを組んだのがマラナタだった。同社は独自プランターを活用した壁面緑化サービスを手掛け、農家らにネットワークを持つ。

車の内装端材からつくった培地

両社は24年5月に観葉植物の栽培、同7月にはイチゴの栽培を始めた。それぞれ培地に使う端材にあわせて8パターンに分け、生育の速度や状況などを検証した。第三者機関による溶出試験で、カドミウムや水銀といった有害物質が全て基準値内におさまったことも確認した。

将来の商品化を見据え、1期目の栽培でとくに生育が良かった端材を中心に2期目の検証に入る。あわせてマーケティング戦略の立案や展示会への出展を進める方針だ。農家の需要を狙うほか、ホームセンターなどでの販売もめざす。

新たな培地には大きく3つのメリットを見込む。まずは軽さだ。体積1リットルあたりの重量は50〜70グラムと培養土の30分の1程度。高齢者でも持ち運びやすい。

加えて、土中にいるような微生物がおらず、害虫が発生しない。原材料費がかからないため、価格は割安に抑えられるという。

デメリットもある。農家が廃棄する際は事業系廃棄物としての処理が必要で、培養土に比べて手間がかかる。鉢植えに入れて背の高い観葉植物を育てると、鉢部分が軽いため倒れやすい点もネックだ。

今回のような取り組みはアップサイクルと呼ばれる。広く普及したリサイクルは使用済みのペットボトルなどの廃材を原材料に戻して再利用する。対してアップサイクルは廃材を別の付加価値を持つ製品に生まれ変わらせる点が特徴だ。

車業界ではトヨタ自動車がシートレザーの端材からカードケースやペンケースなどをつくって販売している。宝和工業によると植物栽培向けの培地は珍しいといい、アップサイクルの取り組みに弾みがつく可能性がある。

(増野光俊)

宝和工業 1956年設立。自動車向け内装品が主力事業で、主要取引先はスズキなど。2025年3月期の売上高は132億円。従業員数は350人。

マラナタ 2020年設立。植物栽培に使うプランターの金型製作・量産が主力事業。中国出身の呉徳尚代表は起業前、スズキの生産技術管理部門に勤めた。